社会人博士のすすめ
まずは勧めない
社会人になってから博士を目指すというのは,博士課程のいいところをかなり失っていると思う.自分が思う博士課程のいいところは,「腰を据えて研究ができること」「同じ志を持つ人たちと議論ができること」の2つである.
「腰を据えて研究ができること」というのは,博士後期課程を3年間過ごすことである.学部4年生から博士後期課程を目指すということがだいたい定まっていれば,研究室や研究テーマが変わらなければ,5年位は同じ分野を磨くことができる.これは,研究テーマを5年追いかける,というよりも,研究のやり方を訓練するにちょうどいい時間と思う.学部4年生で研究テーマを設定し,修士2年で修了する場合,研究がなんとなく進んでくる時期は決まって修士1年の後半になると思う.しかし,この時期は決まって就活が挟まるので,ほとんどの人は,学会や論文まで手が出ずに,研究のやり方を十分にこなすことができない.これを,博士後期課程に進むとすれば,研究テーマのノリの良いときに集中して学会や論文に注力できる.さらに,一回や二回こなしたくらいでは,こうすればよかったなと思う反省点を改善できる機会がまだ残っているのである.この繰り返しを人生の間に一回でも経験するのとしないのでは,かなり違うのではないかと思う.
会社でも前回の業務の反省をして,次に活かす場面は多いが,勝手がかなり変わったり,自分ひとりの力ではなんともしがたいことのほうが多く,結局実を結ばないことがあると思う.これが,博士課程では自分の力を着実に伸ばすことに投資できる.社会人博士は長く在学することが制度上はできることもあるが,二足のわらじにも限界がある.
お金について
内訳は受験料,入学金,授業料,交通費,宿泊費,移動費,製本代になる.
受験料:30,432
入学金:282,000
授業料:267,900×2 =535,800
宿泊費:約10,000×10=100,000
移動費:約16,000×10=160,000
製本代:64,881
合計:1,108,232円
移動費と宿泊費が痛かった.
もっと大学に近い立地で就職していれば,土日で日帰りで訪問することとかもできただろう.この年の賞与はほとんど博士課程費用で消えた.
また,社会人博士ということで,再度大学院に入学することになるので,入学金がまた必要になったことも負担である.修了してあんまりにも早く戻るのは損である.
製本について
・製本業者は下記の2つが利用されている
◆大学斡旋の業者
・サービスは業者によるが,母校ならではの割引や納期の設定ができたりする
◆エルビーエス(こちらを使った)
http://www.lbs-hs.co.jp/index.html
・納期:発送まで1週間くらい(通常)
・支払い:「クレジットカード」,「銀行振り込み」
・入稿:PDFで入稿可能
・製本料金+ページ数に応じた印刷料金
製本料金:3000~4000円/冊
印刷料金:8円/頁モノクロ,35円/頁カラー
(例,モノクロ100頁10部=4万円強くらい)
(例,カラー100頁10部=7万円強くらい)
・製本化するファイルをすべてPDFで結合して入稿する
初めて使ったが,意外と問題なく利用できた.印刷の出来栄えを比べたりはしていないので,いいものかどうかはわからないが,せっかくの自分の博論くらいはケチらずに製本しておいてよかった.
仕事の両立について
当人の業績によるところが大きい.
自分は,幸いにも業績はすでにあったため,後は必要分の単位取得と博士論文の執筆に集中できた.これが,これから業績を作っていく,となるとこなせる自信はない.また,研究テーマによるところもある.理論系か実験系でいえば,実験系は不利だと思う.学生時代は,いつでも試行錯誤ができる自由があったが,社会人ではそれができない.
単位取得は有給休暇を利用して,レポートやスライド作成,発表練習,博士論文は業務後や土日を使って意外となんとかなった.有給休暇は社会人博士で捧げられないと成り立たないと思う.そういう話を研究室の後輩にすると,結構ショックを受けたようであった.会社によっては,学位取得そのものが業務の一環になることがあるため,研究室訪問一つでも出張扱いになったりするらしい.
学位取得後
現状,人事制度に学位が反映されるわけでもないので,業務上にプラスはない.名刺に無理を言って博士(工学)とつけれたくらいである.海外出張の際の名前の登録でMr.からDr.にできることもあるが,まだ,恩恵に預かってはいない.もともと,何かを期待していたわけではないため,不満に思うことはないのだが,研究室のOBOG会でこういった話をすると,なんだか残念がられてしまうため,なんとか身になる振り方をしていきたいとは思っている.
けれども,学位取得にこだわらなくとも,インターネットの世界にはとても自分では技術や学術で追いつけなさそうな成果や活動をしている人がいくらでもいる.自分もそうなっていきたい.
反省
大学の施設,権利をもっと使いたかった
図書館や研究室,書籍部…普通に考えればかなり便利な施設が一月に一回くらいしか使えないのはもったいない.また,学生ライセンスでAdobeアカウントが安くなったりしたけど,あんまり実感はなかった.博物館とかに学生料金で入る,位の恩恵を感じておけばよかった.
受けたかった授業を受けられなかった
社会人博士出身の人によるキャリア話の講義が特にそうだった.
社会人になると,座学というものが新鮮で,自分がまだまだ何も知らないものだと思う一方で,まだまだ面白いものがあると感じさせてくれる.
もっと参考文献を読んでおきたかった
一旦は学生に戻ったので,普段は手に入れにくい論文をもっと手に入れればよかった.また,読んだ内容を自分のものにする訓練が足りなかった.論文を読む訓練というのは,学生時代の最終奥義とも言える気がする.あらゆる情報収集方法で,最も由緒正しく,健全な確認方法である.これは,今後も技術が発達していっても廃れないノウハウになると思う.さらに,論文を書く,ということをできるようにする訓練の場が大学なのだと思う.